映画  LES PLUS BELLES ANNÉES D'UNE VIE 『男と女 人生最良の日々』
16/07/201912:23 三上功
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2019 Davis Films - Les Films 13

時の流れはただただ美しい。

それは何故だろう。おそらくそこには変化があるからだ。堅牢な城も時の流れを経て崩れ、小さかった芽は緑豊かな大木となる。

人間も同じだ。小さかった子供が20年の時を経て大人になり、さらに30年を経て成熟した男女となる。20年ぶりに再会した男と女が美しいのは、お互いの人生に流れた時を尊重しているからだろう。しかし、それからさらに30年の時を経て同じ男女が人生の後半で出会ったとき、そこにはどんな会話が生まれるのだろうか。フランスの監督クロード・ルルーシュの最新作『男と女 人生最良の日々』はそんな男女の長い再会の物語だ。

時代は1960年代。男ジャン=ルイはスピード狂のレーサー。人生を生き急ぐかのようにラリーに取り憑かれている。女アンヌは映画制作の記録係。スタントマンの夫とともに好きな映画を仕事にしていた。パリに住む男と女は互いにパートナーを不幸な形で失った後、子供を預けているドーヴィルの寄宿舎でたまたま出会った。それが有名な『男と女』の物語だった。その20年後を描いた続編が『男と女II』であり、シリーズの3作目となる『男と女 人生最良の日々』はそれから50年後の奇跡とも言える再会を描いている。

しかしジャン=ルイの日々の記憶は消えようとしていた。80歳を過ぎて体力も記憶も衰えた彼は高齢者施設で暮らしている。自分を探しに来たジャン=ルイの息子から施設の場所を聞いたアンヌは、施設を訪れて彼の記憶を取り戻そうとする。緑あふれる高齢者施設の庭で交わす30年ぶりの二人の会話は、自然で奇跡的で美しい。しかし、そこには確実な老いがあり、記憶のすれ違いがあり、ある種のあきらめが含まれている。アンヌはジャン=ルイの記憶を取り戻すため、彼をドライブに誘いかつての思い出の地ドーヴィルを目指す。男も女も乗る車も昔と同じだが、世界は確実に変化している。交通規則は厳格になり、二人の運転はおぼつかない。

映画には主演の2人の他にも「男と女」が出てくる。ジャン=ルイの息子アントワーヌとアンヌの娘フランソワーズだ。彼女たちも両親と同じく久しぶりの再会で、そこには感動というよりは気恥ずかしさがある。しかし2人はすぐに意気投合し、互いの仕事の話をしながら仲を深める。アントワーヌは文筆業をして、フランソワーズは馬の専門医をしている。互いに自分の仕事に誇りを持っている二人の会話は聞いていて心地いい。そんな大人の会話を聞いていると、無邪気にはしゃいでいた50年前の2人とつい比較してしまい、時の流れに驚きを禁じ得ない。さらに驚くことに、この2人もジャン=ルイとアンヌと同じく、『男と女』に出てくる子供時代のアントワーヌとフランソワーズが演じている。つまり『男と女』の家族がそのまま50年後を演じているのだ。その圧倒的なリアリティを含んだ映画の空気感は唯一無二のものだろう。
後半からストーリーはまるで老いたジャン=ルイの頭の中のように夢と記憶が混ざり合い、それが本当に起こったことなのか曖昧になる。

しかし、スクリーンに映るのはノルマンディーの自然と2人の男女という確かな存在だ。大事なのは過去の事実の検証ではなく、あの日出会った男女が50年の時を経て同じ場所に存在しているという今だ。それは実際に『男と女』と同じ俳優が演じていることからフィクションを超えた強いリアリティを生む。印象的だったのは、かつて電話交換手を介して連絡を取り合い電報で愛を伝えていた2人が、ノルマンディーの浜辺でiPhoneを使ってセルフィーを撮る場面だ。そんな文明の道具の変化を描くことで、50年の月日が流れていることをさり気なく伝えている。あのときの2人が本当にその場所にいるという事実。クロード・ルルーシュ監督は日本初上映の時の舞台挨拶で「同じ監督が同じ俳優を使って同じストーリーを撮ること。これは映画史上ないことです」と自身の代表作である『男と女』のエピローグに当たる本作について語っている。

この映画は時の流れ、人間の存在そのものだ。記憶が失われかけても、思うようにいかなくても、人生は素晴らしい。


『男と女 人生最良の日々』"Les Plus Belles Années d'une vie"

公開:2019年
監督:クロード・ルルーシュ(Claude Lelouch)
キャスト:ジャン・ルイ・トランティニヤン(Jean-Louis Trintignant)、アヌーク・エーメ(Anouk Aimée)、スアド・アミドゥ(Souad Amidou)、アントワーヌ・シレ(Antoine Sire)
音楽:フランシス・レイ(Francis Lai)
東京出身。慶應義塾大学文学部卒。 大学時代に写真撮影を始める。2007年、パリに一年間滞在して写真を制作。 以後毎年パリへ出かけ、変化し続けるパリと変化しないパリを撮り続けている。 他にパリを舞台にした小説を書いている。

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