映画  DE L'AUTRE COTE DU LIT 『ベッドの反対側に』
24/01/201415:33 Yusuke Kenmotsu
dautrecotedulit.jpg

この映画はソフィー・マルソーを追い求める映画だ。彼女はデビュー作の『ラ・ブーム(1980)』が大ヒットして一躍人気者になり、数々のヒット作、話題作に出演する。日本でも大変な人気で、当時彼女の映画のおかげでフランス映画やフランスという国にあこがれを抱くようになった日本人男性は決して少なくない。デビューからおよそ30年、10代の頃のアイドル的な輝きから、大人の女性の成熟した美しさへと変化を遂げながら、我々をずっと魅了し続けるスターなのだ。
 
そんなソフィー・マルソーは本作では2児の母アリアンヌを演じている。彼女は家事育児に忙殺されながら宝石の訪問販売員もこなしている。一方彼女の夫ユーゴー(ダニー・ブーン)は工事用機材の会社を経営する敏腕経営者。立派な家で暮らし、それぞれが車を持っていて、お金には不自由していないのだが夫婦仲は芳しくない。妻は夫の、夫は妻の忙しさを知らず、相手と役割を交換したいと思っていた。

アリアンヌは子供の送り迎え、買い物、仕事に炊事洗濯と大忙しの毎日なのだが、夜遅く帰ってきた夫から、遅延しているリフォーム会社への催促の電話はまだなのかと責められる。これにキレたアリアンヌは自分の忙しさを訴え、翌日予約している娘の歯医者の付き添いをユーゴーに頼む。ユーゴーは車で娘を歯医者に連れて行く。彼は仕事で忙しくて常に携帯で電話している。治療が終わり、電話したまま急いで会社まで行くと妻からの怒りの電話で我に帰る。なんと歯医者の前の路上に娘を置き忘れたまま出社していたのだ。

堪忍袋の緒が切れたアリアンヌは荷物をまとめて子供達と家を出ようとするが、ユーゴーが妻の提案していた夫婦の役割交換を受け入れることで、最悪の事態は免れる。この役割交換とはアリアンヌが会社の経営者として仕事をし、ユーゴーが家事育児、宝石の訪問販売員をするということだ。そしてリフォームの遅延についての相談でやって来たはずの法定執行吏のモリスという男が役割交換のアドバイザーとなるという漫画のような荒唐無稽なお話だ。そしてモリスというこの男はユーゴーには「ロマンス」と「勘」を持って女性的に、アリアンヌには「率直さ」と「征服心」を持って男性的になるよう説く。
それに従って仕事を交換し、車もベッドの寝る位置(これが題名の由来)も交換するといった話にリアリティを生真面目に追い求めるのは即座にやめにしよう。我々がこの映画で追い求めるのはソフィー・マルソーなのだから。
 
彼女は夫の高級車ジャガーに乗って出社する。初出勤の前に車内のミラーを見ながら「私の内なる男よ」と呟く。そこに流れる音楽は『マイ・シャローナ』、ポーズを色々変化させ、表情も様々に変える無邪気なソフィー・マルソーがそこにはいる。目や鼻や口が音楽に合わせて踊っているようなのだ。

あるいは彼女の会社の重役の男性が辞職を願い出た際、思い止まらせるためにランチに行くシーンで、薄いワインなら水の方がましと、昼間から95年のサンテミリオンをボトルで注文する。そしてがぶがぶ飲みながら骨付き肉を野獣のように食らいつく。ここで流れる音楽はストゥージズの『NO FUN』、ワイルドで大胆で魅力的に食事する彼女の姿に圧倒されて、重役は辞職を思いとどまるのは言うまでもない。

そして仕事も軌道に乗り、家で夫をベッドに誘おうとする場面では、ビゼーの『カルメン組曲』の『ハバネラ』に乗って、ソフィー・マルソーが肢体を巧みに操って夫に上から覆いかぶさる。「靴は履いたままでいいのよ」などと囁きながら猛々しく迫るのだ。

こういった音楽とソフィー・マルソーとの幸福な関係性が、荒唐無稽な絵空事とも思えるストーリーをギリギリのところで救済し、良好なコメディに昇華させているのだ。
 
映画が始まったその瞬間からオチが分かるのだがそれは全く問題ない。夫婦あるいは男女がお互いに理解し尊重しようというメッセージが存在するのかもしれないけれど、それはこの映画が担うにはあまりにも真面目なテーマだ。しかし我々観客はこの映画を観て素直に満足すればよい。我々がこの映画で追い求めるのはソフィー・マルソーなのだから。
 
 
再放送:1月26日(土)21:10、31日(金)23:00
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

おすすめ

 

おすすめ

 

おすすめ