映画  SARAH PRÉFÈRE LA COURSE 『アスリートが選んだ道』
06/04/201616:14 Yusuke Kenmotsu


恋愛、スポコン、病気、あるいはセクシャリティ
 
 
2013年のクロエ・ロビショ監督作品。ケベック州出身の女性監督である彼女は、数本短編の作品を撮っていて、その中の『Chef de meute(2012)』という作品がカンヌ映画祭の短編部門に選出されて、世界的に注目されるようになる。この映画は、クララという女性の叔母が亡くなり、叔母が飼っていた犬をクララが預かることになって、それがきっかけで思いもよらぬことが起こるという物語だ。孤独や死といった真面目なテーマなどお構いなしにカメラの前を動き回るパグ犬が愛らしく、映画の風通しを良くしている。そして25歳の時に撮ったのが『アスリートが選んだ道』である。監督自身子供の頃はランナーになりたかったと語っているように、この長編処女作には自伝的な要素も込められているのだろう。
 


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陸上部で中距離走のランナーであるサラ(ソフィー・デマレ)は高校を卒業して大学でも走りたいと思っている。しかし母親はケベックから遠く離れたモントリールの大学へ通うことに賛成しておらず、金銭的な援助はできないと言われてしまう。そうした状況の中で、サラはアルバイト先の友人アントワーヌ(ジャン=セバスチャン・クルシェヌ)に提案されたとおり、彼と結婚することで奨学金を得ようとする。そしてこの偽装結婚の相手アントワーヌとの奇妙な同居生活を送りながら、トレーニングを積んでいくのである。簡素で形だけの結婚式を終え、すぐに指輪を外すサラと、それに同調しながら実はずっとはめているアントワーヌ。これが次第に真実の愛に変わり、晴れやかなハッピーエンドを迎えるなら米国式ラブコメのようで、話は簡単なのだけれどそうは問屋が卸さない。肉体関係も持った2人であったが、愛のない偽装結婚という生活に耐えられず離婚してしまう。


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そうなると、高校の時からのライバルで友人のゾーエ(ジュヌヴィエーヴ・ボワヴァン)と切磋琢磨して競技に励むスポ根映画になるのではという予想もまた裏切られる。サラはゾーエがカラオケで歌うのを聴いているうちに胸が苦しくなって倒れてしまう。小さいころ一度心臓の病気を患ったというサラは病院で検査を受ける。難病もの映画への移行かと思えば、そこまでひどい病状というわけではなく一応走ることができるようにもなる。
 
この作品は口数が少なく、表情もあまり変化のないサラという少女の青春譚として、想定の斜め上を行く展開が楽しめる作品である。そしてふつうに観るとそれだけで終わってしまう可能性があり、それだけでも風景を切り取る画や、サラが走る姿を横から移動しながら撮るところなどセンスを感じるのだけれど、監督の次の作品を観てからこちらに戻ってくると全く違った印象を受けるだろう。

次の作品とは劇場映画ではなく『Féminin/Féminin(2014)』というネット配信のドラマのことで、これはケベックに暮らすレズビアンたちの生活を全8話で描いた連作短編群像劇だ。その回毎に主人公が変わり、時折インサートされる監督による(フェイク)インタビューでリアルさも出している。狂言回し的に出ていた猫を最終話のラストで10人ほどの女性たちで弔うシーンも印象的であった。



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監督自身もレズビアンを公言しており、そういった視点で『アスリートが選んだ道』を観ると、サラとアントワーヌとゾーエの三角関係の映画と捉えることができるだろう。

アントワーヌとの結婚式の様子についてゾーエから尋ねられたサラの表情、眼鏡を外したゾーエにちらりと視線をやるサラ、ゾーエの家の洗面台に置いてあった口紅をそっと持っていってしまうサラ、ゾーエの部屋での2人の微妙な間など『Féminin/Féminin』ほどの露骨な表現はないのだけれど、サラは自身のセクシャリティを探求しているようだ。

この映画では、走ること、病気のこと、セクシャリティのことなど明確な答えは出ていないのだが、それもまた青春ということだろう。

カナダ出身といえば『わたしはロランス(2012)』や『Mommy/マミー(2014)』のグザヴィエ・ドラン監督の活躍が記憶に新しいが、このクロエ・ロビショ監督も今後が楽しみな新しい才能である。

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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