映画  LE CONVOYEUR『ブルー・レクイエム』
14/10/201615:51 Yusuke Kenmotsu


潜入して強盗を待つ男
 

2003年の二コラ・ブークリエフ監督作品。本作が長編3作目で、フランスでは50万人を超える観客動員でヒットとなり、日本でも劇場公開されている。ブークリエフ監督はその後もコンスタントに作品を発表し続けているが、日本で劇場公開されることはあまりない。



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しかし他の有名な映画作家と同様に、ブークリエフ監督の作品もいくつか観ることで、彼の作家性を感じることができるだろう。

彼の作品の多くは犯罪映画であるのだが、荒唐無稽なアクション活劇というのではなく、現実に起こり得るような設定や描写により、一見淡々としているようなストーリー展開でありながら緊張感が持続するのだ。例えば『キューブ・ホスピタル(2008)』は精神病院の描写やそこで起こる連続殺人など、病院や施設での痛ましい事件をニュースで見ている日本人の胸にも刺さるような作品だ。そこにアルツハイマー病のおじいさんが探偵役であるというケレン味を加えて、映画作品として観やすいものにしている。

現実に起こりそうなという意味では『Made in France(2015)』は衝撃的だ。過激なイスラム教系の男たちが髭を剃りパリに潜んで生活をしながら、綿密なテロの計画を立てて実行に移していく物語で、2014年に撮影されている。2015年の初頭に公開予定だったところにシャルリー・エブト襲撃事件が発生したため、公開が延期された。そして配給会社が変わり、エッフェル塔とカラシニコフ銃を重ねた刺激の強いポスターを張り出し11月18日の公開を待機していると、11月13日にパリ同時多発テロ事件が発生してしまう。2度も公開が延期された『Made in France』は結局2016年の4月にフランスで劇場公開されたのだが、そのころにはすでにこの作品のテレビのオンデマンドサービスが始まっていた。ブークリエフ監督の「今」を切り取り映画にする能力が長けているあまり生まれた、呪われた作品と言えるだろう。

『Made in France』ではフリーのジャーナリストがテロリストグループに潜入しており、警察の内通者である彼の視点で物語は語られる。このように潜入する者というのはブークリエフ監督作品で頻繁に見られる語り口である。『キューブ・ホスピタル』では元刑事のアルツハイマー患者が連続殺人の起きる精神病院に潜入(入院)し、『スフィンクス(2010)』では同僚を殺された刑事2人がドラッグディーラーたちの蠢く闇の世界へと身分を隠し潜入捜査を始める。
 
初期作品である『ブルー・レクイエム』も例に漏れず、侵入する者の物語だ。アレックス・ドゥマール(アルベール・デュポンデル)という男が現金輸送会社ヴィジランド社の面接を受けにやってきて、新たな警備員として働くことになる。ホテル暮らしをしており、部屋の清掃などを一切断っている謎の多い男アレックスのヴィジランド社への入社の真の目的は、潜入と復讐だ。



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彼は現金輸送車の襲撃事件に巻き込まれた過去があり、恐らく目撃者という事で犯人から襲われて息子を失っていた。この襲撃にあった現金輸送会社がヴィジランド社であり、アレックスは再び犯人たちが襲ってくると思ったのか、ヴィジランド社に犯人と通じている者がいると睨んだのか、復讐心を内に秘めた寡黙な男アレックスは潜入して働き始めるのだ。
 
「今」を切り取る名手ブークリエフ監督は、ヴィジランド社の親会社がアメリカの企業に近々買収されるといった今風のトピックを織り交ぜながら、現金輸送会社の個性豊かな仲間たちとの日常を淡々と描き、クライマックスである襲撃という非日常を冷静に盛り上げている。

「今」を切り取りデフォルメして映画作品にする彼の作風は、時として『Made in France』のように現実が追い越してしまう事がある。しかし、作ろうと思ってもなかなか呪われた映画など作れないという意味でも、映画ファンはブークリエフ監督の才能や彼の作品に出てくる潜入する者たちを擁護すべきだろう。
 
再放送:10月15日(土)25:55、17日(月)21:05
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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