映画  UNE AFFAIRE DE FEMMES 『主婦マリーがしたこと』
24/10/201615:18 Yusuke Kenmotsu

ギロチンへの道程
 
 
1988年のクロード・シャブロル監督作品。彼はフランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダール、ジャック・リヴェットらと共に1950年代後半からヌーヴェルヴァーグの旗手として映画を撮り始めた。最初の妻アニエス・グードの祖母の遺産のおかげで、他のヌーヴェルヴァーグの監督たちより早い1957年に『美しきセルジュ』で長編デビューすることができた。2番目の妻は長編第2作『いとこ同志(1959)』で初めて出演し、『殺意(1966)』『女鹿(1967)』『不貞の女(1968)』『肉屋(1969)』といったサスペンス作品を連発し、絶好調であった時期をヒロインとして支えたステファーヌ・オードラン。

3番目の妻は、撮影現場でカットとカットの整合性は取れているか、つなぎ間違いはないかといったこと記録しながら監督に指摘するスクリプター(記録係)と呼ばれる仕事で初期の作品から関わっていたオロール・パキスで、『主婦マリーがしたこと』でもオロール・シャブロル名義で参加している。



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『主婦マリーがしたこと』の音楽はアニエス・グードとの息子マチュー・シャブロルが担当しており、シャブロル監督が生涯を通して映画をファミリー・ビジネスとしていたことがよく分かる。

タイトルにあるマリーとはマリー=ルイーズ・ジローの事である。ジャンヌ・ダルクを映画化した場合、必ずラストは火刑に処される場面だと想像できるのと同様に、フランスでギロチン刑に処された最後の女性であるマリー=ルイーズ・ジローを主人公とした映画のラストシーンは想像に難くない。そこに至るまでの波乱の人生をサスペンスの名匠シャブロル監督が丁寧に紡ぎだしている。



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第二次大戦中ナチス占領下のノルマンディで、戦場に行った夫を待ちながら2人の子供を育てている主婦マリー(イザベル・ユペール)。ある農家の男性のところでジャガイモを掘らせてもらう場面では、「(収穫する面積は)小さくていいから半額でお願い」と値切り、支払いの際の財布とお金が大写しになる。この映画がお金にまつわる物語になることを示唆するような演出だ。

貧しいながらも懸命に生きていたマリーはある日、隣に住む女性の堕胎を手伝ったことで運命がガラッと変わってしまう。お礼に蓄音機を貰った彼女は味をしめ、にわか堕胎医を仕事とする。夫ポール(フランソワ・クリュゼ)が傷痍兵として戦地から帰ってきても、マリーの愛は完全に冷え切っていた。


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マリーの着ている服や髪型がみるみるうちに綺麗になり、食卓に並ぶ料理も豪勢になっていく。広い家に引っ越してからは、友人になった娼婦のリュシー(マリー・トランティニャン)に仕事場となる部屋を提供し、手数料を受け取るという売春の斡旋業のようなことまで始める。

活動的で美しく妖艶になっていくマリーとは対照的に、ポールは少しずつ仕事を始めるが、多くの時間を家で過ごし、趣味の切り絵に没頭しているようだ。この切り絵というのは、少年時代のシャブロル監督が貰ったプレゼントの中で一番嬉しかったものだと、監督自身が語っている。紙を切って少しずつ貼り付けて一つの大きな絵にする切り絵が、映像の小さな断片を繋いで並べていき、一つの物語となる映画というものを作ることに興味を持つきっかけとなったのだろう。しかし本作での切り絵は、少年時代の思い出にとどまらず、警察への密告の伏線となって後半サスペンスを盛り上げるのが見事だ。

裕福になったマリーが転落していく物語自体興味深いが、シャブロル監督ならではの演出がキラリと光る部分も忘れがたい。マリーが警察に連行されるシーンは、中庭で子供たちと遊んでいて幸せの絶頂のようなところから始まる。警察の車が道に停まり2人の警官がやってくるのだけれど、ちょうど影になっていて不気味な2人が近づいてくるように見える。気づいたマリーの顔のアップは、カメラに背を向けた警官2人の肩と肩の間に収まっていて、フレームの中に警官2人でもう一つの小さなフレームを作ったような隙間のない画面が構成されており、マリーの逃げ場の無さを感じ取れるだろう。
 
1930年生まれのシャブロル監督にとって占領時代というのは10代前半の多感な時期であったはずで、この時代の映画化には特別な思いがあったのは間違いないだろう。レジスタンスでも対独協力者でもない普通の主婦が闇の仕事に手を染めているのを、8歳の息子ピエロはただ黙って鍵穴から覗いているだけだ。本作のピエロのまなざしは、戦争というあまりに大きな時代のうねりを前にして、田舎への疎開や家族が別々に暮らすことを何もできず受け入れてきた戦時下のシャブロル少年のまなざしと一致すると言えるだろう。
 

UNE AFFAIRE DE FEMMES 『主婦マリーがしたこと』
再放送:10月25日(火)19:15、29日(土)26:00、31日(月)21:05
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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