映画  LA BANQUIÈRE 『華麗なる女銀行家』
01/12/201610:46 Yusuke Kenmotsu

8%の女の生涯

 
1980年のフランシス・ジロー監督作品。彼はジャンル映画を手堅くこなす職人監督という印象だ。ジロー監督は30歳で長編デビュー作を撮る際、すでに『プリンセス・シシー』から四半世紀が経っており国際的スターとなっていたロミー・シュナイダーへのオファーを躊躇していた。新人の自分などが大スターに直接声を掛けるなど畏れ多いと感じていた彼は、共通の知人であるミシェル・ピコリを介して出演をお願いしたようだ。そうして作られたのが『地獄の貴婦人(1974)』である。ロミー・シュナイダーは殺人を犯し、死体をバスタブで硫酸漬けにして処理するといった悪魔のような女の役柄だ。大スターらしからぬ悪女役を受けたのは『夕なぎ(1972)』などで固定されたイメージに悩んでいた彼女にとって、自分への挑戦だったのだろう。美しき汚れ役を演じることで、女優として新境地を開く記念すべき作品となった。

そしてフランシス・ジロー監督が再びロミー・シュナイダーとコンビを組むのが『華麗なる女銀行家』だ。

日本で本作が公開されたのが1985年ということなので、1982年に43歳で亡くなるロミー・シュナイダーの死後ということになる。DVDも発売されておらず、現在では忘れられがちな作品ではあるけれど、ロミー・シュナイダーのベストアクトに挙げる批評家がいるほど魂のこもった演技が見られるのでロミーファンは必見だ。



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本作の主人公エンマ・エケール(ロミー・シュナイダー)には実在のモデルがおり、その人物の名はマルト・アノー。映画ではかなり忠実に彼女の生涯を描いているようだ。女性初の銀行家にという明るい一面がある一方、政治家に賄賂を渡したりムッソリーニと交流があったりと毀誉褒貶相半ばするといった実態の掴みづらい人物像だ。

映画はエンマが貧しい帽子売りをしていた1900年代初頭から始まる。当時のパリの映像を挿入しながらモノクロで始まる画面には、しばらくサイレント映画のように手書きフォントの中間字幕が出てくる。時代が流れエンマが高級娼婦からフランス初の女銀行家になっていくのに合わせて、次第に画面も言葉を話し始め、色彩を持つようになる。1895年に生まれた「映画」の成長に合わせたような画面の構成は映画ファンをご機嫌にさせてくれるだろう。



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エンマは1929年に銀行のオーナーとなり、他の銀行が1~1.5%の金利であった時代に8%の利子を約束して民衆から「8%の女」として絶大の支持を受ける。当時女人禁制と言えるほどの男社会であった金融業界に、突然女性が入ってきて人気者になるのだから既存の銀行家たちは面白いはずがない。彼女の台頭を苦々しく思う銀行界のボスであるバニステール(ジャン=ルイ・トランティニャン)は予備判事ラルゲ(クロード・ブラッスール)に手を回し、証券不法取引で追い詰めようと画策する。
 
銀行家になったころのエンマは白のタキシードに白のべスト、白の蝶ネクタイに黒のパンツという男装で生き方や意志の強さを表現しており、ロミー・シュナイダーの色気と交わり不思議な魅力を醸し出している。不思議な魅力という点では、レズビアンであるエンマには夫がおり、離婚してもビジネスーパートナーとして関係は続いていたし、レズビアンの愛人が死んだのち子供を養子に引き取るなど、一風変わった関係性の持続も彼女の魅力の一つだろう。左翼代議士と懇意にしながら右翼政党にも肩入れしてしまうという分け隔ての無さが悲劇の引き金になるのだけれど。

エンマのモデルであるマルト・アノーは刑務所の中で服毒自殺したようで、映画でのエンマの最期とは異なっている。映画音楽家の大家エンニオ・モリコーネによるテーマ曲が流れる中で迎えるエンマの死に様は注目だ。
 
 
 

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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