映画  LE GUIGNOLO 『ジャン=ポール・ベルモンドの道化師/ドロボー・ピエロ』
27/12/201600:00 Yusuke Kenmotsu


本気ならヴェニス

 
1980年のジョルジュ・ロートネル監督作品。ロートネル監督は娯楽映画の大家ともいうべき存在でどの作品もめっぽう面白い。ジャン・ギャバンを渋い老刑事として使った『パリ大捜査網(1968)』、アラン・ドロンを主役に迎えたクールな犯罪劇『愛人関係(1973)』『チェイサー(1978)』、子猫のような愛らしさで男を手玉に取るミレーユ・ダルクの『恋するガリア(1965)』『牝猫と現金(1967)』等、役者の個性を最大限に引き出して作品の方向性とうまくマッチさせている。

そして『ジャン=ポール・ベルモンドの道化師/ドロボー・ピエロ』ではアラン・ドロンと並ぶ大スター、ジャン=ポール・ベルモンドが主演している。ロートネル監督とベルモンドのコンビは他にも『警部(1978)』や『プロフェッショナル(1981)』など多数ありユーモラスで軽やかな身のこなしのベルモンドが堪能できる。『警部』で見せたような、真っ白のオープンカーに乗っていて、雨が降ってきたからといって傘をさすといったオトボケシーンの間の抜けたカッコよさはベルモンド以外では考えられないぐらい様になっている。
 

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本作は日本未公開ということもありDVD発売の際のいい加減な邦題が定着してしまっている。いい加減といえば本作を紹介する日本語のデータベースのほとんどで、ベルモンドの次に名前が書かれているのは『太陽がいっぱい(1960)』のヒロインであるマリー・ラフォレだ。しかし映画の冒頭で、ベルモンドの顔と絵で描かれた体がくっついてカクカク動くごきげんなアニメーションでのスタッフやキャストのクレジットではマリー・ラフォレの名前は確認できない。そればかりか全編観てもどこにいるのか見つけられないほどだ。試しにアメリカやフランスのデータベースを覗くとマリー・ラフォレの名前はなく、ベルモンドの次にはイタリア人女優のミレッラ・ダンジェロの名前がある。反対に彼女の名前は日本のものにはない。日本で紹介する際マリー・ラフォレとミレッラ・ダンジェロの名前を間違えたのをきっかけに引用、孫引きと誤った情報が伝わってしまったのではないだろうか。

どこでどう間違えてミレッラ・ダンジェロの名前が消えてしまったのか気になるところだ。それは当然本作における彼女が文句なしに素晴らしいからである。ベルモンドはアラブの大金持ちを装い、ダンジェロも貴婦人のふりをしてお互い近づく。ベルモンドは宝石の付いたティアラをだまし取ろうとし、ダンジェロもお金をせしめようとする。手に入れた2人はそれぞれ喜び勇んで自室に戻り確認するが、両方とも偽物であったというキツネとタヌキの化かし合いのような可笑しさだ。昨日の敵は今日の友、この2人がイギリスの御曹司に対して結婚詐欺を働こうとする手際やコンビネーションも最高だ。

ロートネル監督の前作『事件』と本作は音楽担当が同じフィリップ・サルドということもあり、サントラもセットになっていることが多いので、恐らく『事件』のヒロインのマリー・ラフォレとミレッラ・ダンジェロのとり違えはこのあたりで起こってしまったのだろう。
 


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ミレッラ・ダンジェロが本作で紹介されていないのは余りにもやるせないので何度も唱えてみたものの、彼女の出番は序盤の早い段階で終わり、舞台は水の都ヴェニスに移る。

ある男からアタッシュケースを渡されたベルモンドだがそれが訳ありなブツで、国際諜報組織や警察から狙われるはめになるという、よくある娯楽映画のパターンだ。アタッシュケースの中身がマイクロフィルムというのも、ヒッチコックがよく使うマクガフィン的なもので、登場人物たちには大切だが、作劇の構造上は代替可能でさほど重要ではない。



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この映画ではヴェニスの地形や美しさとベルモンドの身体能力や人柄が幸福な関係で結びついている。追手を逃れるためベルモンドはパンツ姿のまま、窓から下を流れる川をゆく船に飛び降りる。そして船から川に架かる橋に飛び移り、よじ登る。逃げ場をなくしたベルモンドを助けるためにやって来たヘリコプターが垂らすロープにつかまり、彼は上空へと飛び立つのだ。陸、海(川)、空を上下左右に動き回るベルモンドの身体能力と、ヘリで浮かび上がってからの俯瞰で捉えたヴェニスの街並みには理屈抜きに興奮してしまうだろう。

若いころのロートネル監督の作品に『恋するガリア』というものがある。自殺未遂をおこした女性と親しくなったミレーユ・ダルクが、原因は夫の浮気にあるいうことで懲らしめるためにその夫に接近する。あった時の様子を逐一妻に報告するのだけど、ある日ミレーユ・ダルクは女性の夫から旅行に誘われる。それを相談した妻から言われるのが「遊びならフォンテーヌブロー、好きならドーヴィル、夢中ならアムステルダム、本気ならヴェニス」という言葉で、浮気性の夫の行動パターンなのだろうが、ヴェニスを舞台にした本作の体を張った演技や粋な演出を観ていると、スタッフやキャストから「本気ならヴェニス」という合言葉が聞こえてきそうである。
 


LE GUIGNOLO 『ジャン=ポール・ベルモンドの道化師/ドロボー・ピエロ』
 放送時間
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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