映画  LE VOLEUR 『パリの大泥棒』
20/12/201610:55 Yusuke Kenmotsu

 
静かな泥棒映画


 
1967年のルイ・マル監督作品。ルイ・マル監督はドキュメンタリー映画を出発点としており、『沈黙の世界(1956)』をジャック=イヴ・クストーと共同で監督しアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞している。1958年には25歳で長編劇映画のデビュー作『死刑台のエレベーター』というジャンヌ・モロー主演のサスペンス映画を発表し左岸派のヌーヴェルヴァーグの代表的な存在となる。

その後もモロー主演の不倫劇『恋人たち(1958)』、陽気なスラプスティックコメディ『地下鉄のザジ(1960)』、青年が自殺するまでの2日間を描いた『鬼火(1963)』と様々なジャンルで質の高い作品を撮っている。1976年にアメリカに移住してからも、12歳の娼婦を描いた問題作『プリティ・ベビー(1978)』などを撮り、フランスに帰国してナチス占領時代のフランスの寄宿学校を題材にした作品『さよなら子供たち(1987)』を発表する。



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国際的な評価が高まり、製作にある程度の自由が与えられていたころに撮ったのがメキシコを舞台にしたミュージカル風西部劇コメディ『ビバ!マリア(1965)』と『パリの大泥棒』だ。
 
本作『パリの大泥棒』はジャン=ポール・ベルモンドが20世紀初頭にパリを騒がせた大泥棒ジョルジュ・ランダルを演じ、女優もジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド、マリー・デュボワ、ベルナデット・ラフォン、マルレーヌ・ジョベールと豪華絢爛にもかかわらず、興行的にも批評的にも成功とは言い難い結果となっている。それはこの座組みであればどうしても痛快アクション娯楽映画を期待してしまうからだろう。同じくベルモンド主演のアンリ・ヴェルヌイユ監督作品『華麗なる大泥棒(1971)』のような、大胆不敵なお宝強奪からアクション満載の追走シーン、ところどころお色気を交えてエンニオ・モリコーネの音楽で雰囲気を盛り上げるといった娯楽映画の王道を観客は望んでいたはずである。



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しかし『パリの大泥棒』という作品は、ジョルジュ・ランダルという人物が職業としての「泥棒」になってしまい、それを天職と確信し盗みを続けていく映画であり、この男の孤独を余計な飾り気なしに描いている。その飾り気のなさは冒頭から存分に感じることができるだろう。紳士風の装いの男ジョルジュがある屋敷の塀にロープを引っ掛けて、それを使って中に入っていく。その際、持っていた大きなバッグを先に中へ投げ入れると、地面に落ちる瞬間に中に入っているであろう金属がガチャンと音を立てる。屋敷のドアを、バールを使ってギシギシこじ開ける。泥棒という行為の性質上、他に人気はなく静まり返った空間において、ジョルジュが立てる物理音が際立っている。そして金品を物色するときもゴソゴソと音を立てるが、そのいずれのシーンもBGMは流れず物音が響き渡るだけだ。本作を最後まで観ても、BGMは一切使われていない。これがこの映画を飾り気がなく感じる大きな要因だ。泥棒が活躍する映画の多くは、盗みに入るシーンでサスペンスを盛り上げるような音楽が使われているし、プロデューサー(出資者)はサントラを売ることで資金の回収を期待する。監督が音楽を使わないと言って、それがまかり通るのは当時のルイ・マルの信頼と実績の証だと言える。

冒頭の泥棒のシーンからフラッシュバックで過去に戻る。幼い時に両親を失ったジョルジュ少年は叔父に育てられている。自分の爪を噛んでいたジョルジュは叔父から注意を受けるのだけれど、それはマナーを問題にしているわけではない。「自分の爪を噛むな。噛むなら他人の爪を噛め。爪も資産の一部だ」と独特の教育を受け、それが後の彼の性格や人格を形成すると思われる興味深いエピソードだ。後見人である叔父が実はジョルジュの財産をかすめ取っており、ジョルジュが結婚しようと長年想っていた叔父の娘シャルロット(ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド)も勝手に資産家の男と婚約させていた。奪われた財産とシャルロットへの愛を取り戻すためにジョルジュは初めて泥棒に手を染める。貧しさや欲望よりも叔父への復讐心がきっかけであったのだ。


 
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前作『ビバ!マリア』では底抜けの明るさで2人の女性闘士が革命を成就させるのを描いていたが、本作のジョルジュは政治が不安定になる事を憂えている。彼によると無政府状態に陥ると人々は不安で外に出歩かなくなり、泥棒の仕事がやりにくくなるようだ。本作の舞台は20世紀初頭であるが、五月革命に向かっていく制作当時の社会への言及とも考えられる。
 


 LE VOLEUR 『パリの大泥棒』  
 放送時間


1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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