映画  VIVEMENT DIMANCHE !『日曜日が待ち遠しい!』
04/02/201700:00 Yusuke Kenmotsu

トリュフォー監督最後の作品
 
 
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1983年のフランソワ・トリュフォー監督作品。本作は1984年に52歳で亡くなるトリュフォー監督の最後の作品である。主演は前作『隣の女(1981)』でヒロインを演じ、トリュフォーにとって私生活でも最後のパートナーであるファニー・アルダン。『隣の女』の終盤、ファニー・アルダンが小型拳銃をバッグにしのばせて夜道を歩くシーンの雰囲気から、次は彼女のためにミステリー映画を撮ろうと考えたようだ。ミステリーとはいっても犯罪喜劇といった陽気なムードを持つ本作で、監督はこれまで深刻で悲劇的な役柄が多かったファニー・アルダンのイメージをひっくり返すような、軽快でユーモラスなヒロインを演じさせた。監督がヒロインにイメージしたのは、ハワード・ホークス監督『赤ちゃん教育(1938)』やジョージ・キューカー監督『フィラデルフィア物語(1940)』など古き良きハリウッド映画のスクリューボールコメディというジャンルでその快活さや勇ましさ、敏捷さで男たちを手玉に取っていたキャサリン・ヘップバーンである。
 
そしてヒロインが事件解決のために自ら捜査を開始するという物語は、トリュフォーが最も信奉する監督の一人、アルフレッド・ヒッチコック作品を思わせる。『裏窓(1954)』のヒロインであるグレース・ケリーのように、不自由な状況にある男性に代わってあちこち動き回る本作のファニー・アルダンは印象的だ。

 
 
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本作はモノクロ作品である。トリュフォーが『大人は判ってくれない』で長編デビューした1959年の低予算の作品ならばモノクロが一般的であるが、1983年の時点では状況が全く変わっておりカラーが当たり前になっている。映画館や現像所からモノクロのフィルムは嫌がられるようになってさえいた中でトリュフォーがモノクロ作品にこだわったのは過去の失敗に原因があるようだ。ジャンヌ・モロー主演の『黒衣の花嫁(1968)』という婚約者を殺されたヒロインが5人の男たちを殺しに向かう復讐譚で、トリュフォーは犯罪映画の趣をなくしてしまったとカラーにしたことを公開していた。だからこそ『日曜日が待ち遠しい!』ではモノクロで夜の場面や雨のシーンを増やし、フィルムノワールの雰囲気を作品全体に定着させるのに成功している。
 
霧が立ち込める沼地の草むらで猟銃を構えて狩りをしている男ジュリアン(ジャン=ルイ・トランティニャン)は不動産会社の社長だ。他にも狩りをしている男がいる。その男に忍びよる影があり、すぐさま男は撃ち殺されてしまう。絶妙な位置で捉えたカメラと編集によって、誰が誰を撃ったのか謎の残るような犯罪映画らしい素晴らしい雰囲気の出足だ。

 


 
しかし本作はこの殺害シーンの前にタイトルやキャスト、スタッフのクレジットが入る冒頭の映像がある。トリュフォー作品常連の音楽担当ジョルジュ・ドルリューによる陽気なリズムのテーマ音楽に乗って、バルバラ(ファニー・アルダン)が日差しを浴びながら通りを闊歩するだけなのだけれど、彼女の歩調や笑顔、小さな犬が彼女の足元に付いてくるなど幸福感が満ち溢れている。本に例えるなら表紙のような部分なので、決して陰々滅々とした映画ではなく、この女性が活躍する映画だと宣言するような冒頭である。
 
実際本作ではジュリアンが殺人の容疑者となると、彼の秘書であったバルバラがジュリアンの無実を証明しようと探偵顔負けに捜査する。素人劇団で役者もやっているバルバラが劇のコスチュームのままあちこち出かけてしまうというお転婆ぶりで笑いを誘う。
 
警察に追われるジュリアンは事務所の地下に隠れ、バルバラが外に出かけていく。1980年の作品『終電車』において、占領下のパリでユダヤ人の夫が地下に隠れて、妻カトリーヌ・ドヌーヴが外に出ていくというトリュフォー的構図が『日曜日が待ち遠しい!』で継承されている。本作では地下室の換気窓から地上が見え、ジュリアンが行き交う人たち(女性たち)の脚をぼうっと眺めるというシーンもあり、脚フェチで知られるトリュフォーらしさが伺える。ジュリアンの視線に気づいていたバルバラが外に出たあと、換気窓の前を通り過ぎてまた引き返し、もう一度脚を見せるために窓の前を通る悪戯っぽさが可愛らしい。

 
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本作はヒッチコックタッチなどとよく言われ、実際似たところもあるのだけれど、挙げればキリがないほどの映画の小ネタ(バルバラの姓ベッケルは映画監督ジャック・ベッケルからのいただき、映画館で上映されている作品はキューブリック監督『突撃』、やくざたちの名前もそれぞれ映画のタイトルで…)やトリュフォー作品にしばしば出てくる813という数字(アルセーヌ・ルパンシリーズの1篇からとったもの)、絶対的な女性賛歌など、トリュフォー監督にしか撮れないトリュフォータッチを、彼の最後の作品ではじっくり味わうことができるだろう。
 

VIVEMENT DIMANCHE !『日曜日が待ち遠しい!』
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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