映画  LE NOUVEAU 『転校生』
17/03/201715:02 Yusuke Kenmotsu

思春期映画の新定番


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2015年のルーディ・ローゼンバーグ監督作品。彼は俳優としてキャリアをスタートさせ現在でもテレビドラマや映画に出演しているが、24歳のころカメラの後ろに回り演出することに興味を持ち始める。100本以上のCMと3本の短編映画の経験はあるが、本作『転校生』が長編初監督作品である。

本作はザグレブやブエノスアイレスなど世界各地の国際映画祭に出品されており、いくつか賞を獲っているのだけれど、一番目を引くのはマイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(MyFFF)での受賞だ。世界中のどこからでもフランスの若い映画作家の作品が観られるという画期的なこの映画祭において、『転校生』は映画監督審査員賞と外国報道機関賞をダブル受賞している。特に映画監督審査員賞というのは国際的に活躍するパブロ・トラペロやベルトラン・ボネロ等5人の映画監督が審査する賞で、同業者からの評価が高いのがよく分かる結果となっている。これは映画そのものの物語としての面白さは当然として、先輩監督たちが自分にはできないと舌を巻くような演出を称賛したためだろう。ほとんど演技経験を持たない子供たちによる「自然な演技」は不自然と言っていいほどの完成度の高さだ。子供を使った映画の隅々にまで行き渡った自然さは、途轍もない労力の裏返しであると、監督たちは経験的に認識したのだろう。実際200時間以上撮りためた映像素材を1時間半にも満たない本編の上映時間に編集するのに7ヵ月を要したというのだから、自然さを装うのは並大抵のことではないのがよく分かる。
 


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新しい学校に転校してきた14歳のブノワ(ラファエル・グレナシア)は新しい環境になじめずなかなか友達ができない。母親からチョコレートをプレゼントしてみんなに近づくようアドバイスされるがモジモジしてうまくいかない。クラスの問題児であり人気者のシャルルたちを家に招待するも、散々馬鹿にされ散らかされたあげく、彼らのためにゲーム機を準備している間に何も言わずに帰られてしまう。

ブノワに近づいてくるのは、太っちょでちょっぴり空気の読めないジョシュア、学級委員の座を狙う「ちびまる子ちゃん」の丸尾君的存在のコンスタンティン、体が不自由ながら芯の強い女の子アグラエ(ジェラルディン・マルティノー)といった一風変わった面々だ。



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そんなある日、ブノワはスウェーデン出身でフランス語が少々苦手な女の子ジョアンナと課題を一緒にやることになり、急速に距離が縮まっていく。一緒に歩き、一緒に食事し、一緒の音楽を聴く。それだけで幸福であったブノワだけれどそんな時間は長く続かない。人気者シャルルたちが可愛いジョアンナを仲間に入れようとしているのだ。ブノワとジョアンナの仲はどうなっていくのか、変わり者たちと真の友情が築けるのかといった、思春期真っただ中の悩みや若きエネルギー、悶々とした気持ちのどうしようもなさのつまった思春期映画の新定番と言えるだろう。
 
この作品ではユニークなキャラクターが数多く登場するが傑出しているのがブノワ一家と同居している叔父グレッグである。演じるマックス・ブブリルはローゼンバーグ監督の幼馴染みということもあり、達観したニートを好演している。グレッグのアドバイスでブノワがクラス全員を招待したパーティーにやって来たのはたった3人。また「女は嫉妬をすると燃える」というグレッグ独自の理論から、ブノワはジョアンナとのデートに別の女性(ジョシュアの姉)を連れて行くという奇策に出て、当然のごとく妙な空気になってしまう。映画をかき回すグレッグの存在がこの作品をユニークなものにしている。



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映画監督にとって長編第一作は特別なもので、そこにすべてが現れるとはよく言われることだが、恐らくローゼンバーグ監督にとっても『転校生』は特別なものだろう。過去に撮った3本の短編のうち2本が子供を描いたものというだけでなく、細かい描写やエピソードがそっくりそのまま『転校生』に転用されている。パーティーに呼ぶ呼ばないやパーティーでの騒乱、避妊具をおもちゃとして使うこと、壊れた電卓、姉(本作ではジョシュアの姉)に自分の好きな女の子の家に電話させ好みの男子を探るといったことが正確に繰り返されている。そして『アグラエ(2010)』の主人公アグラエはジェラルディン・マルティノーが演じており、『転校生』で再登場を果たしている。

こうして見るとそれぞれの短編は独立していながら、『転校生』に向かうための習作のようであり、ローゼンバーグ監督の長編第一作への強い思いをより感じることができるだろう。
長編第一作で長年の強い思いを吐き出したローゼンバーグ監督の今後の作品にも期待したい。

 
再放送:3月19日(日)21:10、23日(木)23:00
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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