映画  LE JOUR SE LEVE『陽は昇る』
12/05/201718:33 Yusuke Kenmotsu

運命に弄ばれる男
 
1939年のマルセル・カルネ監督作品。カルネ監督は長編第1作目の『ジェニイの家(1936)』から詩人のジャック・プレヴェールとコンビを組んで『天井桟敷の人々(1944)』のような映画史に残る名作を多く生み出してきた。彼らの作品は粋で詩情に富んだ台詞、陰影のある詩的な映像、運命に翻弄されるペシミスティックな物語といった特徴がある。

フランス映画の一時代を築いたカルネ監督とプレヴェールのコンビによる約10年間はカルネ/プレヴェール時代と呼ばれており、ヌーヴェルヴァーグ以前の、これぞフランス映画といった趣の作品群である。一方でジャン=リュック・ゴダールなど批評家時代のヌーヴェルヴァーグ世代はカルネ/プレヴェールによる詩的リアリズム作品を「詩情もどき」と揶揄し、革新的な映画を世に送り出すことで自分たちの道を切り開いていった。ヌーヴェルヴァーグの作品を観てフランス映画に夢中になったという人でも、カルネ/プレヴェールの作品を観ることで伝統的なフランス映画の味わいや、ヌーヴェルヴァーグ作品の新しさをより感じることができるだろう。
 
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『陽は昇る』は公開当時さほど評価は高くなく、日本では劇場公開すらされていない。国際的にはヴェネチア国際映画祭に出品されているが、最高賞の名がムッソリーニ賞だった頃なので作品の真っ当な評価は期待できない。本編中の警官隊によるあまりにも無慈悲な連続射撃などは、リアルな世界とはかけ離れている。翌年のナチスによるフランス侵攻を予言するような不気味さに観客たちも忍び寄るファシズムの影を感じたことだろう。
2014年のカンヌ映画祭で埋もれた旧作を発掘するカンヌ・クラシック部門で上映されたこともあり再評価の機運も高まっている。
 
『陽は昇る』の物語は6階建てのアパートから始まる。住人はらせん階段で昇り降りしていてそこが彼らの交流の場でもある。そんならせん階段を住人である盲人が昇っていると最上階の部屋から男2人の話し声がし、その後銃声が響き渡る。カメラは階段にいるので中の様子は分からないが、中から撃たれたと思われる男がよろよろと出てきて階段を転げ落ちて死んでしまう。住人たちは右往左往、噂話に大忙しだ。部屋の中にいるのはフランソワ(ジャン・ギャバン)という男で、彼が男を撃ち殺した犯人のようだ。やってきた警官に威嚇射撃したことから、警察も武装し、向かいの建物やアパートの屋根に潜んで包囲網を形成していく。追い詰められたフランソワは銃撃に至った経緯やある女性との出会いを回想していく。
この映画の最大の特徴はこのフラッシュバックによる過去の回想だろう。主となる物語の時制としてはフランソワが部屋に立て籠っている一晩だけで、フランソワの回想によって何があったかが挿み込まれている。今ではよく観る手法だが、当時としてはかなり斬新な編集方法だったようだ。
 
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フランソワは工場労働者である。宇宙飛行士のような作業服を着た砂型工のもとに花束を持った若い女性が現れる。こうしてフランソワは花屋の仕事で配達にきて届け先を探しているフランソワーズ(ジャクリーヌ・ローラン)と出会う。同じ名前で、孤児として施設で育ったという境遇も同じ女性と運命の出会いを果たしたフランソワはフランソワーズを愛し始めるが、フランソワの前に胡散臭い手品師のヴァレンティン(ジュール・ベリー)が現れる。この人物が冒頭で階段を転げ落ちた男と同一人物だと誰もが認識できるだろう。1930年代後半から40年代半ばのジャン・ギャバンが演じるキャラクターの多くと同じように、フランソワは運命に弄ばれて悲劇へと向かっていく。
 
『陽は昇る』は1947年にアメリカでアナトール・リトヴァク監督によってリメイクされた。盲人の件からアパートの構造、片耳の欠けたクマのぬいぐるみという小道具に至るまでかなり忠実に再現されている。日本では『長い夜』としてDVD化されているこの作品は、ほとんど同じ内容ながら詩的リアリズム作品が海を渡り、フィルムノワール作品として生まれ変わったと言える。
この2作品はラストだけは大きく異なっている。フィルムノワールというジャンルも雰囲気の暗い陰鬱な作品が多いのだけれど、『長い夜』の主人公を演じるヘンリー・フォンダは恋人に支えられ警察に投降するという、少しだけ希望の光が見えるラストであった。
そういう意味では、止めてくれる人を失った目覚まし時計がずっとジリジリと鳴っているという救いのない終幕の『陽は昇る』の方が強烈だ。
 
LE JOUR SE LEVE『陽は昇る』

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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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