映画  RESPIRE 『呼吸−友情と破壊』
18/08/201723:30 Yusuke Kenmotsu


画面外の不穏さ、逆光の妙

 
2014年のメラニー・ロラン監督作品。ジェラール・ドパルデューに見出されて女優デビューした彼女が、フランスで注目を集め始めたのはフィリップ・リオレ監督の『マイ・ファミリー/遠い絆(2006)』で主演し、セザール賞有望若手女優賞を獲得したころからだろう。そして世界的に知れ渡ったのはなんと言ってもクエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ(2009)』に出演してからだ。家族が皆殺しにされ、ナチスに対する復讐心に燃える彼女の姿は、タランティーノ映画にぴったりの美しき復讐者であった。

 

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そんな彼女は早くから監督業にも興味を持っており、2008年には短編作品を発表し、2011年には『Les adoptés』で長編作品デビューを飾った。『呼吸-友情と破壊』は彼女にとって長編2作品目である。1作目ではメラニー・ロラン自身役者として出演していたのに対し、本作ではカメラの後ろに周りディレクションに徹しており、それだけでも監督としての自覚と自信をうかがわせる。
 
本作のオープニングは主人公シャルリ(ジョゼフィーヌ・ジャピ)の目覚めるシーンから始まる。しかしカメラは彼女の顔を映すことはなく、ベッドの足元のかなり低い位置に置かれており、ベッドから出て、着替える足元だけが捉えられている。彼女が部屋を出て階下へ降りていくのをカメラは後ろから付いていくのだが、その間、画面外の男女の口論の音声が入ってくる。シャルリが一階に降りるとそこには父親(ラシャ・ブコヴィッチ)と母親(イザベル・カレ)がいて、2人は父親の浮気問題で喧嘩していたようだ。後に別れたり、戻ったり、また別れたりと繰り返す夫婦関係は、娘にはどうすることもできない。「画面外の音」のように実態を持たず、シャルリを苦しめるのだ。

 

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そんなシャルリも学校に行けば友人がいて、おとなしいながら楽しく過ごしている。ある日サラ(ルー・ドゥ・ラージュ)という明るく奔放な少女が転校してくるとシャルリと意気投合し、2人は急速に距離を縮めていく。サラは登下校時や家などでは常にタバコを咥え、呼吸とともに煙を吐き出している。その煙の効力ではなかろうかと思ってしまうほどの自然さで、サラは次第にシャルリを支配していく。サラはシャルリの家族と旅行をすることになり、2人は旅先で少々揉めてしまう。親友ならではのちょっとした口論や喧嘩であったはずが、カットが変わり翌日の学校のシーンになると、教室の空気がガラッと変わっており、クラス全体がシャルリを疎外するような雰囲気が漂っている。サラが何か働きかけたのかなど明確にされないが、こういった画面外の不穏さこそメラニー・ロラン映画の真骨頂なのだ。

だからこそシャルリがサラを尾行し家を突き止める場面での息をのむような横移動の長回しは、本来画面外にいるはずの不気味なサラを、画面内に引き戻し弱さの一端を見ることができる。

 

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本作のラストでは画面外の不穏さに、時折呼吸困難になりながら画面内でずっと耐えてきたシャルリが、いわゆる「衝撃のラスト」へと向かって行動を起こすのだが、その直前のシャルリとサラの会話の場面が秀逸である。ベッドに並んで座る2人の会話はおよそ3分の長回しでサラの方には光が当たっているが、角度的にシャルリは逆光気味で表情が読み取りづらい。画面内に留まり続けたシャルリの内なる感情や怒りはこの逆光と持続するカットの不穏さよって見事に表現されている。

ジョゼフィーヌ・ジャピとルー・ドゥ・ラージュという主演2人のこれからの活躍ももちろんであるが、卓抜した演出センスを見せた監督としてのメラニー・ロランもこれから楽しみな存在だ。


RESPIRE 『呼吸−友情と破壊』の再放送時間はこちら

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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