映画  VIE SAUVAGE 『ワイルド・ライフ』
31/08/201701:52 Yusuke Kenmotsu
野生はつらいよ
 
2014年のセドリック・カーン監督作品。1991年に『鉄道バー』で長編監督デビューしてから、文芸的エロティック作品『倦怠(1998)』や実在の殺人鬼を描いた『ロベルト・スッコ(2001)』、少年と空飛ぶ模型飛行機のファンタジー作品『チャーリーとパパの飛行機(2005)』など様々なジャンルの作品を発表してきたセドリック・カーン監督の新作である。近年は俳優として『おとなの恋の測り方(2016)』などで渋い演技も見せている。

『ワイルド・ライフ』は東京国際映画祭で上映された程度で、劇場での一般公開はされていない。本作は実話に基づいているが、この事件はフランスではよほど関心が高かったのか、『ワイルド・ライフ』の数か月前にジャン・ドゥニゾ監督が同じ事件を映画化した『La Belle Vie』を発表している。また、出発点は違えどマット・ロス監督の米国映画『はじまりへの旅(2016)』も10年間森の中で生活した家族の一風変わったロードムービーであり、自然への憧れや消費社会への反発を、野生生活する家族を通して描いた作品が昨今立て続けに制作されているのは非常に興味深い。

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一家は森の中でトレーラーハウス暮らしをしている。物語はパコ(マチュー・カソヴィッツ)が外出した隙に、ノラ(セリーヌ・サレット)が子供たちを連れて逃げ出す緊迫したところから始まる。ノラは母として、息子たちの将来を案じ、森での生活に終止符を打とうと実行した脱出計画であるが、それまでの生活や苦悩が描かれることなく、唐突に脱出劇が描かれ、カメラは戸惑うように小刻みに揺れながら彼女たちに付いていく。3人いる子供のうち、オケサとツァリの2人はこの脱出に納得しておらず、抜け出して父の元へ帰ろうとするが捕まり、母の実家へ連れていかれる。そこに現れるのがパコで、ノラの実家からオケサとツァリを奪い返し、森での生活を再開させる。

唐突な脱出に次ぐ脱出で事の次第はあまり説明されないのだけれど、ノラの連れ子である長男トマだけ母と暮らし、パコとノラの子のオケサとツァリは父と暮らすことになる。

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3人で暮らし始めたパコはノラが訴えたこともあり、誘拐犯ということになっている。それでも自然の中で、息子たちを学校に行かせることなく、自分で育てている。そして唐突に10年という月日が流れる。10年といえば7歳と8歳という設定であったオケサとツァリはそれぞれ子役から別の役者に変更するほどの年月である。これほどの時間を1カットで何気なく切り替えてしまう唐突さが、逆にその描かれない10年間の余白に信念や意地、逡巡や葛藤を感じさせる。
そうはいっても年頃の男子であるオケサとツァリにオシャレも恋もするなと言うのは、パコの信念というより、身勝手そのもの。野生生活にこだわるあまり周りが見えなくなっているのは誰の目から見ても明らかだろう。

本作はセドリック・カーン作品としてもかなり肌触りの違うものだと思われがちだが、本作でのパコの振る舞いは、『倦怠』で10代の女性にのめり込むあまり暴走してしまう哲学教師のようであり、『チャーリーとパパの飛行機』で模型飛行機が空を飛ぶと信じるあまり屋根に上ってしまう少年のようでもある。また、レストラン開業の夢を見るあまり貧困に陥ってしまう『よりよき人生(2011)』の青年が見せる、息子が勝手にスニーカーを購入したことに激怒するという身振りは『ワイルド・ライフ』で正確に反復されている。
こう見ると本作『ワイルド・ライフ』の向こう見ずではた迷惑な主人公パコはセドリック・カーン的主人公の正統継承者と言えるだろう。何かに熱中するあまり周りを困らせてしまう、はた迷惑なセドリック・カーン的主人公をこれからも見守っていきたい。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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