映画  LA TRUITE 『鱒』
19/10/201721:32 Yusuke Kenmotsu
唐突でつかみどころのないイザベル・ユペール

1982年のジョゼフ・ロージー監督作品。彼はアメリカ出身の映画監督で1930年代から演劇の演出をしており、1948年に長編映画第1作の『緑色の髪の少年』を撮る。戦争孤児の少年の髪の色がショックで緑色になるというこの作品は、反戦映画であるとともに異物への辛辣な視線を描いている。この映画は当時のアメリカで巻き起こっていた共産党員に対する赤狩りへの警鐘と考えてほぼ間違いないだろう。実際共産党員であったロージーは『M』『不審者』『大いなる夜』という、恐ろしくも魅力的なフィルムノワールの快作を連発した1951年に『大いなる夜』の編集作業を待つことなくヨーロッパへと亡命することになる。

赤狩り当時、下院非米活動委員会から公聴会への召喚状が届き、公聴会で密告してハリウッドに復帰し、後ろ指を差されながら仕事を続けた者も多くいる。しかしロージーはイタリアやイギリスで時には変名を使いながら活動を続け、最終的にはフランスに行きつくことになる。『鱒』は流転の映画作家ジョゼフ・ロージーの最晩年の作品である。

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『鱒』はつかみどころのない映画だ。「ロージー晩年の傑作」というにはあまりにも不可思議で、「名監督の露骨な失敗作」というにはあまりにも愛おしい。このつかみどころのなさは、本編の半分ほどが日本ロケであるにもかかわらず、劇場未公開、未ソフト化という現状によく表れている。

物語はフランスの田舎の鱒の養殖場で働くフレデリック(イザベル・ユペール)がボーリング場で出会った実業家夫婦(ジャン=ピエール・カッセル、ジャンヌ・モロー)や金持ちの青年サン=ジュニ(ダニエル・オリブリフスキ)を翻弄しながら、なぜかゲイの夫をフランスに残して日本に行き、東京、京都を巡り、日本人の老実業家ハマダ(山形勲)に気に入られて、最終的には援助を受けて成り上がっていくという話だ。ストーリー以上に印象に残るのは、エピソードとエピソードを繋ぐ動機や理由の欠如、つまり唐突さだ。ただ誘われただけで日本に来てしまうフレデリックの唐突さに明確な説明などない。フレデリックはその他にも、目が合った板前を唐突に連れ出したり、唐突に美容室で髪をベリーショートにしたりする。

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本作ではこの唐突さの中に身を置きながら自由気ままな小悪魔ぶりを見せるイザベル・ユペールが素晴らしい。どこまでが計算なのか分からない彼女の天衣無縫ぶりは、説得力を欠いた物語の隙間を自由に泳ぎ回っているようだ。
ホテルの畳の部屋をズカズカとブーツで歩いたり、裸で男とベッドに入りながら体を許すことなく子猫のようにスルリと身をかわしたりと、本作でのイザベル・ユペールの唐突さは留まることを知らない。

『鱒』では主人公フレデリックを他人の援助で成長していく養殖場の鱒に見立てているのだろう。しかし老獪なロージー監督が手掛けると、金儲けのために育てているお魚に、実はお前さん達が飼われてるんじゃないかいといった資本主義への皮肉が聞こえてきそうである。


 LA TRUITE 『鱒』
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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