映画  SALUT L'ARTISTE 『アーティストよ こんにちは』
08/05/201800:00 Yusuke Kenmotsu
売れない役者はつらいよ
 
1973年のイヴ・ロベール監督作品。彼は役者としてデビューし、1950年代にはジェラール・フィリップと共演した『愛人ジュリエット(1950)』や『夜の騎士道(1955)』といった名作に出演している。

監督作として有名なのは『わんぱく戦争(1961)』だろう。2つの村の子供たちの対立をコミカルに描いたこの作品でジャン・ヴィゴ賞を受賞している。この作品の中で「来るんじゃなかった」という台詞を何度も言うプチ・ジュビスを演じた子役のアントワーヌ・ラルチーグは、その愛らしさから人気が爆発して、翌年のイヴ・ロベール監督作品『わんぱく旋風(1962)』に出演することになる。この時キャストのクレジットには本名ではなく、デビュー作での役名プチ・ジュビスが採用されている。デビュー作の役名がそのまま芸名になるというのは、日本だと三國連太郎を思い出すが、それほどインパクトと愛着のある役だったのだろう。
 
本作、『アーティストよ こんにちは』はなんと言っても、稀代の名俳優マルチェロ・マストロヤンニと2017年に亡くなった『髪結いの亭主(1990)』などでお馴染みのジャン・ロシュフォールの共演が最大の注目ポイントだろう。このスターたちが演じるのが、中年に差し掛かってもなかなか売れる兆しのない役者を演じているのが滑稽だ。

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ヴェルサイユ宮殿内で貴族の衣装を身に着けた男を背中から映す冒頭のシーンで、観る者は時代物の映画と思うだろう。しかしこの男は突然テーブルの上にある電話機で話し始める。仕事やギャラの話をしているこの男ニコラ(マルチェロ・マストロヤンニ)は俳優で、次第に撮影の休憩中と分かる仕掛けだ。ニコラは小さな仕事を朝から晩まで数多くこなしているので、急いで次の現場まで駆けつけねばならず、貴族の格好のまま自分で車を運転して目的地に向かうこともしばしばだ。ほかの事に気を取られ前の車に追突してしまうと、前の車の運転手が出てきて言い合いになってしまう。激しい渋滞を巻き起こしたニコラに向かって周りの車からは「どけろ、ルイ16世」などと罵声が飛び交っている。

次の現場では友人であり端役仲間のクレマン(ジャン・ロシュフォール)と一緒だ。ギャング物の舞台で2人揃って撃ち殺される役である。仲良しの2人は殺された後も倒れたままひそひそ話を続けていて、共演者から訝られている。

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夜は2人一緒にナイトクラブで「ミステリアス・ボーイ」というコンビ名で手品のような出し物をしている。息ぴったりのかけあいとおとぼけが笑いを誘うだろう。
また2人はアニメーションの吹き替えもしている。鼻を押さえて動物になりきるニコラと軽快なクレマン、彼らが動物になりきって歌いだすセッションは最高の瞬間だ。ここで現場監督をしているペギー(フランソワーズ・ファビアン)はニコラの愛人である。またニコラには妻がおり息子もいる。仕事同様私生活もはっきりしない男なのだ。
 
監督が俳優出身ということで、よくある映画監督の苦悩を描いた物語とは一線を画した軽妙なコメディとなっている。しかしマストロヤンニの演技にはただおかしいというのではすまされないような味わいがある。鏡を見つめる表情や、新聞を渡されたときに眼鏡を取り出してかける自然さ、脚本の文字では表現できないような間などを見事に演技として体現し、可笑しさの中に悲哀を、滑稽さの中に老いを滲ませているようだ。ラストショットのストップモーションの彼の表情など到底コメディの顔とは思えないようなどうしようもなさがあり、不思議な印象を残すだろう。
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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