映画  LA FLEUR DU MAL 『悪の華』
19/11/201815:18 Yusuke Kenmotsu
歴史は繰り返される
 
2003年のクロード・シャブロル監督作品。シャブロル監督といえば、批評家時代の1957年にエリック・ロメールとの共著で『ヒッチコック』という評論集を上梓している。『ヒッチコック』は現在では世界中に星の数ほどあるアルフレッド・ヒッチコック監督関連本の最初の書籍であり、それまではサスペンス映画を撮る職人監督と見なされていたヒッチコックを真の映画作家へと昇華させるきっかけとなった名著である。

シャブロルは監督として『美しきセルジュ(1958)』と『いとこ同志(1959)』を発表し、世界に衝撃を与え、ゴダールの『勝手にしやがれ(1959)』やトリュフォーの『大人は判ってくれない(1959)』より早くヌーヴェルヴァーグの到来を宣言することになる。そして長編3本目の『二重の鍵(1959)』以降ほとんどが犯罪映画というシャブロルこそヒッチコックの正統伝承者といえるだろう。
 
本作の設定は2002年のボルドーだが、ブルジョワ一族の4代にわたる血をめぐる物語のきっかけが冒頭に少しだけ描かれる。立派な屋敷の外から艶めかしくもおどろおどろしくカメラはゆっくりと移動しながら中に入っていく。いくつか部屋を横目で見た後カメラはさらに階段を旋回しながら上昇していく。2階の部屋に入るとそこでうずくまる少女を捉え、その脇には血を流して倒れている男がいる。この前後になにがあり、どうなるのか気になるところだがここでは語られず、現代(2002年)の物語が始まる。

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市会議員のアンヌ(ナタリー・バイ)は市長選に立候補しており選挙活動で忙しくしている。夫はヴァスール家の当主で薬局を経営するジェラール(ベルナール・ル・コック)で政治に関心がなく妻の選挙活動を快く思っていない。彼はむしろ若い娘を医薬品研究所に連れ込み、ひと時の情事にふけることに興味があるようだ。

選挙活動中のアンヌはある時、彼女や一族についての怪文書が出回っていることを知らされる。選挙参謀のマチュー(トマ・シャブロル)が読み上げる怪文書の内容によって、このブルジョア一族の歴史や人物の相関関係が映画を観る者にも理解できるようになる。

そこには第二次大戦中対独協力者であったアンヌの母方の祖父ピエールが、その娘でありアンヌの母の妹ミシュリーヌ(シュザンヌ・フロン)に1944年に殺害されたと書かれていた。

また1981年にはアンヌの当時の夫ジャン=ピエールと、彼と兄弟であるジェラールの当時の妻ナタリーが謎の自動車事故で死亡し、この事故で残された者同士であるアンヌとジェラールが結婚したことまで書かれている。

1944年や1981年というフランスでは歴史的に意味を持つ年号に、この一族に起こった悲劇は現代の物語や家族にどう関わってくるのか、あるいは怪文書の送り主は誰なのかといった謎が宙づりになったまま物語は緩やかに展開される。こういった語り口はいかにもシャブロルらしい。緩やかに引き延ばされたサスペンスを後方へと押しやり、見えやすい前景にはアンヌの選挙活動や、ジェラールの連れ子フランソワ(ブノワ・マジベル)とアンヌの連れ子ミシェル(メラニー・ドゥーテ)の再開の話が描かれる。

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本作は前景の影に見え隠れするブルジョワ一族の闇の歴史が通奏低音として不気味さを醸し出している。歴史は繰り返されるという教訓は、現代のフランソワとミシェルの関係性を見れば一目瞭然だろう。また、最後に起こる殺人事件の後で死体を2階に運ぼうとするのだが、その際に現れる協力者は経験者としか思えぬ手際の良さと冷静さをみせている。
冒頭でアメリカから帰ってきたフランソワの荷物を2階に運ぶために2人で協力して階段を運ぶシーンがあり、後半では死体運びとして階段で協力する行為は繰り返される。近親者の恋愛関係や歴史の転換点での殺人事件など、この映画では「繰り返し」が繰り返されるということを階段でも暗示的に表現しているのだ。

何も知らずに当選パーティーを1階で行っているアンヌたちを映したまま映画は終わるのだが、一つ屋根の下、上階には死体があり、そこは宙づりにして幕を閉じるシャブロル監督の老練なシニカルさには舌を巻いてしまうだろう。
 
 
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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