映画  ASPHALTE 『アスファルト』
19/12/201817:06 Yusuke Kenmotsu
出会うはずのない人たち
 
2015年のサミュエル・ベンシェトリ監督作品。彼の長編監督デビュー作『歌え!ジャニス★ジョプリンのように(2003)』は日本でも公開されている。この映画は日本語タイトルだけではどういった作品か判別しづらいが、実際ジャンル分けも困難な作品である。保険会社に勤める男が顧客のお金を着服するのだが、早急に損失を埋めなければならなくなり、最近大金を相続したといういとこに無心に行く。しかしいとこはヤク中で妄想の世界に行っており取り付く島もない。大好きなジョン・レノンとジャニス・ジョプリンがいつか自分の前に現れると夢見るいとこに対して、保険会社の男は自分の妻をジャニス・ジョプリンに、売れない俳優の男をジョン・レノンに扮装させてお金を巻き上げようと画策する。ここまでいくとコーエン兄弟の作品のような犯罪コメディを思わせるが、音楽映画と言ってもいいほどジョン・レノンやジャニス・ジョプリンの音楽も効いていて、なおかつ夫婦や家族の再生の話に収斂させる手腕はなかなかのものであった。

その後も独特のコメディセンスを活かして数本映画を撮っているが、日本で公開されるのは、長編5作目の本作『アスファルト』まで待たなければならない。
                               
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『アスファルト』は郊外の団地を舞台とした3組の男女の交流を描いた群像劇で、実際十代のころ団地で暮らしていた監督の思い出が着想の源となっている。

どんよりと曇った空、お世辞にも綺麗とは言いがたいアパートと脇にあるショベルカーを固定ショットで捉えた後、カメラは屋内へ。そこでは住人たちによる住民投票が行われていた。その議題は住民誰もが閉じ込められた経験を持つオンボロエレベーターを交換するかどうかというものだ。ここで唯一交換に反対したのがスタンコヴィッチ(ギュスタヴ・ケルヴェン)という中年男だ。彼は2階に住んでいて普段エレベーターを使わないので費用を負担することを渋っている。住民たちは合議の末、今後スタンコヴィッチはエレベーターを使用しないという条件で支払いを免除してくれる。しかし彼は直後に怪我をしてしまい、車いす生活になってしまう。使用禁止となったエレベーターをみんなが寝静まった夜中にこっそり使って外出し、辺りの店は閉まっているので病院に設置されたお菓子の自販機で食料を調達するしかない。そこで夜勤の看護師(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)と出会う。彼はとっさに自分はカメラマンであると嘘をついてしまうのだが、それは前日家のテレビで観ていた『マディソン郡の橋(1995)』のクリント・イーストウッドの役柄に影響されたのは明らかで、その不器用さが絶妙なユーモアを生んでいる。
 
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この車いすの中年男性と看護師が一組目で、もう一組は十代の少年シャルリ(ジュール・ベンシェトリ)と隣の部屋に越してきた中年女性ジャンヌ(イザベル・ユペール)だ。女優として活躍していたというジャンヌにシャルリは興味を持つが、今はすっかり落ちぶれてしまったジャンヌに新しい役などない。過去の作品のビデオを観るなどしてすっかり打ち解けたシャルリはジャンヌに今後の女優としての方向性を指南するようになる。
 
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フランス映画界きっての大女優に売れない女優役を演じさせるのがユニークで、ビデオでシャルリが観る『腕のない女』として使用される映画がユペールの出世作である『レースを編む女(1977)』をモノクロに加工したものであるというのも面白い。

最後の一組は宇宙飛行士のジョン(マイケル・ピット)とアルジェリア系移民の女性ハミダ(サタディット・マンディ)だ。帰還用のカプセルが手違いでアパートの屋上に不時着する。NASAは失敗を隠ぺいするために、ジョンに2日間身を隠すよう指示する。そこで匿ってもらうのがアパートの最上階に住むマダム・ハミダだ。英語が分からないハミダとフランス語が分からないジョンの会話は成立せず、コミュニケーションはちぐはぐであったが、彼女はお得意のクスクスでもてなすなどして親子のような親密さが生まれてくる。

 
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初監督作品で(偽物ではあるが)死者という出会うはずのない者との出会いを描いたベンシェトリ監督は、本作においても本来出会うはずのない者同士を出会わせ、理解し合うことが難しい者同士が親密になっていくという心地の良い物語を紡いでいる。
本作のシャルリ役のジュール・ベンシェトリは『歌え!ジャニス★ジョプリンのように』のヒロインであるマリー・トランティニャンとベンシェトリ監督の間の子だ。独特の雰囲気を持ち、イザベル・ユペールにも物怖じせず堂々と芝居する大物ぶりは今後の活躍を予感させる。
 
 
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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