映画  LE FILS DE JEAN 『ジャンの息子』
06/02/201900:00 Yusuke Kenmotsu
ピエールの父は誰だ
 
2016年のフィリップ・リオレ監督作品。彼は録音技師としてキャリアをスタートさせた後に映画監督になるという一風変わった経歴の持ち主だ。パスポートを失くした男と空港に住み着いている人々の交流を描いた長編監督第一作目の『パリ空港の人々(1993)』が大ヒットし、スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の『ターミナル(2004)』に大きな影響を与えたのは周知の通りだ。
リオレ監督の作品は限定的な空間を活かしたコメディ(『パリ空港の人々』『正装のご用意を(1996)』)や燃え上がる不倫の恋(『マドモワゼル(2001)』『灯台守の恋(2004)』)、移民問題を扱ったもの『君を想って海をゆく(2009)』などジャンルは多岐にわたるが、登場する人物の特徴として、入ってくる者または出ていく者、それを見守る者という役割を担っていることが多い。『パリ空港の人々』は入って来た人物が空港で足止めを食らい、そこで暮らす見守る人たちとのかけあいが楽しい作品であった。『君を想って海を行く』はクルド人難民の少年が歩いてカレまでやって来る。そして恋人がいるイギリスへとドーバー海峡を泳いで渡ろうとする話だが、彼に水泳を教えるシモンという男(ヴァンサン・ランドン)が見守る者と言っていいだろう。

本作『ジャンの息子』もこういった形が採られているので、リオレ作品をいくつか観ていると共通点が見えてきてさらに楽しめるだろう。

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フランスで暮らすマチュー(ピエール・ドゥラドンシャン)のもとにカナダから電話があり、父ジャンが亡くなったと知らされる。遺品を送りたいということで住所を聞かれたマチューであったが、それまで父が生きていることも知らなかった彼は父の葬儀に参列するためにモントリオールに飛び立つことにする。空港で出迎えてくれたのはジャンの親友であったピエール(ガブリエル・アルカン)という初老の男だ。ピエールによればマチューには2人の兄弟がいて、実はユダヤ系らしく、葬儀にはどうしても遺体が必要ということだった。しかしジャンは湖での釣りの最中に心臓発作で死んでしまって遺体が未だ発見されていないようだ。マチューはピエールの指示通り身分を隠して湖での遺体の捜索に協力する。

リオレ作品における海はその天候や波の具合によって情熱や障壁など様々な意味に変化するだろう。しかし湖は本作のようにどんなに天候が良くて、家族が再会しようとも、また『私たちのねがい(2011)』のように水遊びする男女の幸福な瞬間が描かれようとも、どこか死の香りが立ちこめている。本作では死体など出てこないのだけれど、犬が帽子を咥えてやって来るだけで底知れぬ不穏さが漂っている。
 
本作ではジャンが大切にしていたとされる絵画がヒッチコック映画でいうマクガフィンとして使用され、見守る者のピエールやその家族とマチューの関係が詳らかになって、マチューは帰っていく。ちょうどリオレ監督の『マイ・ファミリー/遠い絆(2006)』の逆バージョンのような展開で不思議な感動が味わえる作品だ。

 
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1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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