映画  LES GLANEURS ET LA GLANEUSE 『落穂拾い』
ヴァルダは寄り道の名人
 
2000年のアニエス・ヴァルダ監督作品。ベルギー出身の彼女は第二次大戦に南仏のセートに疎開し、戦後はパリで大学入学資格を取得して文学士号を得る。彼女は初めから映画の道に進もうとしていたわけではなく、写真家としてキャリアをスタートさせた。その後『二十四時間の情事(1959)』などの映画監督アラン・レネに誘われて映画界に入る。こういった彼女の経歴は彼女自身の監督作品『アニエスの浜辺(2008)』というドキュメンタリーで詳しく語られている。

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彼女がヌーヴェルヴァーグの祖母と呼ばれるのは長編デビュー作『ラ・ポワント・クールト(1955)』があるからだろう。映画会社ではなく遺産や友人からの融資で製作されたこの自主製作映画は、監督が脚本も書き、大幅なロケーション撮影で職業俳優と非職業俳優が交じりあっているという当時としては画期的なスタイルであった。予測不可能であるはずの野良猫がフレームのここしかないという場所で足を止め、今しかないというタイミングでの伸びをするのは、今観ると映画の神様に祝福されているようだ。従来のフランスの商業映画のおよそ十分の一程度の製作費のこの作品は、トリュフォーが『大人は判ってくれない(1959)』、ゴダールが『勝手にしやがれ(1959)』を撮って絶賛されヌーヴェルヴァーグと呼ばれるより数年早く同じような作品を撮っていたということになる。
 
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彼女はキャリアの初期から劇映画と並行してドキュメンタリーも撮っている。最新作の『顔たち、ところどころ(2017)』も自由気ままに田舎を旅しながらそこで出会った人たちの顔を写真に収めていく素敵なドキュメンタリーであった。

『落穂拾い』は物を拾うことに焦点を当てたドキュメンタリーだ。ヴァルダ監督はある日、パリの市場で落ちている物を拾っている人たちを見て、映画の着想を得る。物を拾っている人の姿からミレーの名画『落穂拾い』を連想したヴァルダは田舎ではまだ落穂拾いをしているのだろうかという疑問を抱き、カメラを持って旅に出る。
そもそも落穂拾いとは中世から近世にかけてヨーロッパの農村で、収穫後の耕地に散乱する落穂を貧しい人々に拾うことを許した慣行であり社会的弱者を保護する手段の一つであった。ヴァルダが訪ねていく現代の落穂拾いは老若男女様々だ。収穫の終わった畑でジャガイモを拾う人、ブドウやリンゴをもぐ人、養殖場から流れてくる牡蠣を拾う人などである。ヴァルダのカメラは食べ物だけに留まらず、路上に捨てられる家具や電化製品を拾う人まで捉え始める。そこには修理して使ったり売ったりするだけではなく、オブジェとして芸術作品を作る人までいる。
 
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ヴァルダは寄り道の達人だ。偶然立ち寄った古物屋ではミレーとブルトンがそれぞれ描いた『落穂拾い』が一枚のキャンバスに収まった模写を見つけたり、落穂拾いに寛容なワイン農場主に会いに行くとその人物が、連続写真を発明しリュミエール兄弟以前の映画芸術の先駆者と言われるエティエンヌ=ジュール・マレーの子孫であったりする。

また彼女は売り物にならないハート型のジャガイモを気に入り持ち帰ったり、針のない時計に興味をそそられ家に飾ったりするばかりでなく、しばしば自分を、特に皺のよった手を映し、「醜いわ」などとぼやいてみせる。これが消費社会の問題やリサイクルについてのドキュメンタリーに留まらないヴァルダ作品の面白さだろう。食べ物の生産、消費、廃棄、あるいは拾う人という本作のメインテーマの脇にある、連続写真から彼女が持つ最新のデジカメというカメラの変遷、人間の成長や老い、芸術とは何かといったものが、彼女が映すものやちょっとしたぼやきから浮かび上がってくる。

本作の中でレンブラントの自画像を話題にした彼女にとって、自分を映すということは何重もの意味を持つだろう。この映画の最後に野外に運び出される絵画も大変印象的だ。

 
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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