映画  UNE SAISON EN FRANCE 『フランスの季節』
13/06/201911:20 Yusuke Kenmotsu
祖国を失った者たちの行方

2017年のマハマト=サレ・ハルーン監督作品。チャドという国で最初の映画監督とされる彼の作品はあまり観る機会は多くないが、カンヌ国際映画祭で受賞経験もあるアフリカを代表する映画監督である。『渇きの季節(2006)』はチャド内戦後、恩赦となった父の仇を討つために少年が首都ンジャメナへ向かう物語であった。また日本で唯一劇場公開されたマハマト=サレ・ハルーン監督作品『終わりなき叫び(2010)』はプールの監視員をしている元水泳チャンピオンの老人が外資の流入などでリストラされ、息子に仕事を奪われてしまい、果てには内戦に巻き込まれてしまう。
これまでの彼の作品は、内戦の戦闘シーンなどを直接描くわけではないのだけれど、明らかに内戦の影響によってもたらされる災厄を独自の映像感覚で描き出し、ドキュメンタリーのような厳しさと神話のような美しさを兼ねそろえている。

以前の作品はチャドが舞台であったのに対し、本作『フランスの季節』はタイトルの通りフランスが舞台である。野菜や果物を扱う市場で働くアッバス(エリック・エブアニー)は息子ヤシンと娘アスマの3人で暮らしている。アッバスにはエチエンヌという弟もいて警備員の仕事をしている。
本作の冒頭では、真っ暗な森の中で数発の銃声が轟くシーンで始まる。それがアッバスの夢であることはすぐに分かるのだが、目を覚ましたアッバスが乱れた呼吸を落ちつけながら立ち上がると廊下の方に女性が立っている。その女性に誘われるように子供たちの部屋へ行くと窓が開いていてカーテンがゆらゆらと揺れている。そこにヤシンが起きてきて「ママの夢を見た」と言う。アッバスの前に現れたのは出身地である中央アフリカ共和国での内戦に巻き込まれ死んでしまったアッバスの妻であったのだ。

映像では描かれないがアッバスたちは戦火を逃れて難民としてフランスにやって来た過去があり、本作でもアフリカにおける内戦の傷跡を見てとれる。

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アッバスには市場で知り合い恋仲となったキャロル(サンドリーヌ・ボネール)という女性がいる。彼女も移民であり、アッバスたちと同様フランス政府に亡命の申請を出している。キャロルの申請は許可されるが、アッバス親子とエチエンヌの申請は却下されてしまう。アッバスたちはアパートを追い出され、自暴自棄になったエチエンヌは正視しがたい行動に出る。

アッバス親子はキャロルの家に身を寄せることになる。彼女のバースデーパーティーのシーンは、アッバスがネックレスをプレゼントしたりダンスをしたりと、ささやかだが幸福感に満ちている。しかしこのダンスシーンで用いられる曲がヴァレリー・ジューンの『You Can’t Be Told』というのも意味深だ。実際アッバス親子はキャロルに直接別れを告げることなく消えてしまう。

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終盤アッバスたちを探してフランス北部まで車を走らせるキャロルが見たものや彼女の表情は忘れがたい。彼女は身に着けているネックレスは、マハマト=サレ・ハルーン監督の前作『グリグリ(2013)』で男性から女性に与えられるスカーフのような甘美さはなく、寂しさや厳しさが際立つものとなっている。

 
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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