映画  EAUX PROFONDES 『ディープ・ウォーター』
03/07/201916:50 Yusuke Kenmotsu
カタツムリを飼う男
 
1981年のミシェル・ドヴィル監督作品。彼は1931年生まれということで世代としてはゴダールやトリュフォーなどのヌーヴェルヴァーグの監督たちと同世代だが、ヌーヴェルヴァーグの前の世代である「伝統的で良質なフランス映画」の監督アンリ・ドコワン監督の助監督としてキャリアをスタートさせた。1958年に共同監督で長編作品を作った後、1961年に『今夜じゃなきゃダメ』で単独での長編デビューを飾る。

『ディープ・ウォーター』で助監督を務めるロザリンド・ダマンムという女性は後にミシェル・ドヴィル監督と結婚することになる人物で、最も有名なドヴィル作品である『読書する女(1988)』のころにはロザリンド・ドヴィルとクレジットされるようになっており脚本にも参加している。
 
Eaux_Profondes_TV5MONDEApac_01.jpg

本作『ディープ・ウォーター』の主役はイザベル・ユペールとジャン=ルイ・トランティニャンだ。この2人は最近でもミヒャエル・ハネケ監督作品の『愛、アムール(2012)』や『ハッピーエンド(2017)』で共演しているがいずれも父娘の関係であった。『ディープ・ウォーター』では夫婦を演じておりこの年の差も本作の鍵の一つと言えるだろう。

夫であるヴィクトル(ジャン=ルイ・トランティニャン)はパーティーで妻メラニー(イザベル・ユペール)が別の男性と親密に踊っているのを遠目から見ている。周りから嫉妬しないのかとか怒らないのかと心配されても、平然としている(ように見える)。メラニーはその男を家にまで連れてきて2人ソファーで寝る。そして夫はというと別の部屋1人ベッドで寝ることになる。この寛容というより歪な夫婦関係を娘も心配しており、父ヴィクトルに「パパ嫌じゃないの?」と言われるほどだ。

Eaux_Profondes_TV5MONDEApac_02.jpg

Eaux_Profondes_TV5MONDEApac_03.jpg

妻に寛容で嫉妬などしない聖人のような夫という雰囲気だが少しずつ奇妙な部分を見せ始める。妻の浮気相手と2人きりになった時に、以前同じようにメラニーが連れてきた男を金槌で殴り殺したと、ジョークとも脅しとも真実の告白ともつかぬ表情や口調で話し始める。不気味に思った男はそそくさと帰ってしまい2度と現れなくなる。
 
本作では奔放な妻と、次第に静かなる狂気を見せ始める夫、その間にいる天使のような娘の3人の関係がどうなっていくのか最後まで目が離せない。原作はパトリシア・ハイスミスの『水の墓碑銘』である。ハイスミスと映画と言えばヒッチコック監督の『見知らぬ乗客(1951)』やルネ・クレール監督『太陽がいっぱい(1960)』など映画との親和性の高さは折り紙付きだ。誰が犯人かということに重点を置かず、犯罪に至る人物の心理や行動を丁寧に描写し、サスペンス豊かで、たとえ犯罪者であっても魅力的であったり同情を呼んだりといったキャラクターが映画に適しているのだろう。本作ではヴィクトルがカタツムリを観賞用に飼っていて孤独を紛らわせているのだが、ハイスミス自身がカタツムリ好きとして有名で、しばしば彼女の作品にはカタツムリが登場するので、ハイスミスファンへの目配せだろう。しかし本作は原作とまるっきり同じというわけではなく、ヴィクトルの職業やラストなど全く違うところもあるので、原作を知っていても最後までわくわくできるはずだ。もちろんフランス映画伝統のコキュ(寝取られ男)物としても最高に楽しめる作品である。
 
 番組の詳細情報は
こちら
1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

おすすめ

 

おすすめ

 

おすすめ