映画  QUEEN OF MONTREUIL 『モントルイユのクイーン』
10/03/201514:21 Yusuke Kenmotsu
夫の死を乗り越えた女性=クイーン

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女性監督ソルヴェイグ・アンスパックによる2012年の作品。アイスランド生まれの彼女の作品には、アイスランド人が出てきたり舞台がアイスランドであったりということがしばしばあり、本作でもアイスランド人親子というキャラクターが登場する。アンスパック監督作品の中で、日本で劇場公開されたものには『陽のあたる場所から(2003)』という作品がある。この作品にアイスランドから失踪してきて心を閉ざしてしまっている女性ロアという人物が出てくるのだが、ロアを演じるディッダ・ヨンスドッティルは『モントルイユのクイーン』にも出演している。元々彼女は女優ではなく詩人で、ロア役が見つからず困り果てていたアンスパック監督が、たまたま喫茶店でぼさぼさ髪のヨンスドッティルを見かけて「この人しかいない」と感じ、オファーしたのがきっかけで、それ以降もいくつかアンスパック監督作品に出演している。
 
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滞在先で夫を亡くし、骨壺を抱えて帰国し空港で遺灰の入国の手続きをする映画監督のアガット(フロランス・ロワレ=カイユ)。彼女の隣にはロストバゲッジを訴えるアンナ(ディッダ・ヨンスドッティル)と息子ウルヴルがいた。アイスランド人の彼女たちは、ジャマイカからアイスランドへ戻る途中のパリで足止めを食ってしまう。アガットが持っている壺に気付いたウルヴルから、それが何か尋ねられたアガットは「夫よ」と答え、フランス語を解さない母にためにアイスランド語で「旦那さんが入っているらしいよ」と教えてあげる。こういった神妙なユーモアが本作を包んでいて、本来なら陰鬱になってしまいそうな、夫を亡くしたばかりの女性の話を少し柔らかくしている。

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とりわけぼさぼさ髪のアンナの存在の突飛さが映画を弾ませている。アイスランドのゴタゴタ(金融危機やそれに伴う企業の破綻をそっと盛り込むのは、さすがアイスランド出身監督)で帰国が難しくなった親子は結局アガットとしばらく共同生活をするようになり、アンヌはモントルイユを歩いて探索していて工事現場に行きつく。そして何を思ったか鉄製の梯子をずんずんと登っていき一番上にある工業用クレーンに入っていくのだ。本作では空港のオートウォークからアガットの家に至るまで、当然人や列車や車は水平に移動し、カメラもそれに合わせて付いていくのだけれど、そんな原理原則を打ち破るように梯子を見た瞬間に垂直移動を始める突飛なアンヌの姿は感動的ですらある。そして作業員が使っていると思われる音楽プレイヤーのスイッチを押し、高所で『ペール・ギュント』組曲「山の魔王の宮殿にて」を聴きながら、ジャマイカからこっそり持ち帰ったハッパに火を点け、感興の赴くまま詩作に耽るのだ。

一方息子のウルヴルは閉園した動物園で取り残されたアザラシに出合う。度々通ううちにそこの管理人である口髭の男と知り合い、アザラシの名前がフィフィであると教えられる。そしてウルヴルは家にアザラシを連れて帰る。アガッタがバスルームに行くと、浴槽にアザラシがいるのだからびっくり仰天。
 
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この映画で出てくる動物が犬や猫や他の動物ではなくアザラシでなければならなかったのは、単にビジュアルとして面白いからというわけではない。北欧ではアザラシにまつわる生まれ変わりや再生の伝説が数多くあり、本作では明らかに復活のモチーフとして登場している。だからこそアガットがアザラシのフィフィに話しながら入浴するシーンは、それだけで感動的なのだ。

アガットが遺灰をどうするか迷って考えを巡らせていると『アメリ(2001)』でのアメリの妄想のシーンのような空間で、山の頂上から撒いたり、船の舳先で撒いたり、森の中で撒いたりしてなかなか決められない。そんな遺灰の行方も含めて、近所の人達や、アンヌ、ウルヴル、アザラシなどのサポートでアガットに復活の兆しが見える本作は、つらい現実を少しだけ明るくしてくれる魔法のような映画である。
 

再放送:3月13日(金)23:00
 
 

1982年生まれ。京都市在住。 古今東西の映画や国内外の映画祭を愛す。 フランス映画に惹かれたきっかけは、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワール の次男坊という興味で観始めたジャン・ルノワール監督作品との出合いから。 人生の悲喜交々を、自然や天候と戯れるような大らかさや女優たちへの少しばかり 淫らな視線、画面の構図、色彩感覚といった父親譲りの才能で描き出された彼の 作品群で映画の歓びを知る。 フランス映画以外ではアメリカのフィルム・ノワールや西部劇が特に好み。 映画検定一級取得。

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